「ただいまー・・・」



静まり返った夕暮れに染まる我が家。


父が家を出て行ってから、

母は朝から夜まで働き詰めだ。


今朝干した洗濯物をしまい込み、

財布を握りしめて

近くのスーパーへ向かう。



夕飯の食材を主に買って、

家に帰ると、

すぐに調理を始める。



手慣れたもんだ。


最初はすごく戸惑ったのに

今は普通の主婦のよう。



そしてテレビを見ながら

一人での晩御飯。


これも、慣れた。



テレビに映るお笑い芸人は

この時ばかりは

私を笑わせてくれない。



「ごちそうさま・・・」


お母さんの分をラップして

電子レンジに入れておく。



風呂を沸かして、

沸くまでに洗い物を片付ける。





これが私が部活をしない理由。


部活なんてしたら、

時間はズレるわ

疲れて眠くなるわ

マイナス面だらけ。



皆のように

「疲れた〜お腹すいた〜!」

とお母さんに甘える事が出来ない。


疲れても、どんなに眠くても

自分でやらなきゃいけない。


だから大好きなスポーツも

我慢しなくちゃいけない。






夜中、眠りについた頃に

玄関の開く音がした。



しばらくして電子レンジの音が

聞こえてきた。





そして聞こえる啜り泣き。




深い闇のなか、

ぽっかり浮かんだ月に


〝お願い〟を呟きながら

目を閉じた。