桜井師匠の家は、なんと美容院だった。

店の名前は「ピンクチェリー」。
まさに、桜井春っぽいベタな名前。

桜井の母親と、二人のお兄さんがせっせと
働いている。

「おにい~、急遽、この人やって
くれない。時間ないのよ!」
「え?春、突然。おお~モデルみたいに
 クールな子じゃん。いいねえ」
 
そういうと、桜井春の一番上のお兄さんが
空いている席に私を座らせてくれた。

「お名前は?」
「沢井もえです。あっ、桜井さんより 
 一年上の高校二年です。お世話になってます」
「もう先輩、桜井さんじゃないですよ!」
「おっ、師匠。すみません」
「え?師匠?」
「そう、おにい、先輩を私みたいにしてやってよ」
「え? こんな素敵なクールガールをお前みたいに!」
「なんですって、可愛い妹を捕まえて。あのね先輩の
 好きな男が、私がタイプなんだってば、早く」
「す、すみません。アホな妹で」
「いえっ、素敵な妹さんです。」

ショートヘアの私の髪に、エクステというものを
お兄さんは器用にどんどんつけていく。

横で、桜井春のお母さんは、桜井春に耳打ちをして
きゃあきゃあ言っている。
どうやら、お母さんも私のファンだという話だそうだ。

「いいね~。もえちゃん。こういうのも」
鏡には、知らない人がいた。