淡く残る5歳の頃の記憶。

隣の部屋から聞こえる物音に気付き、目が覚め耳を澄ました。
“ママ”と呼んでいる人の、聞いた事のない声を聞いたのはこの頃だった。

ママは俺にはとても優しく、いつも笑って居てくれた。しかし、その時の声はいつもとはまた違う……もっと優しくて甘い声だった。

息を吐いているのか、苦しんでいるのか、泣いているのか、吠えているのか。

その異様な、かすれ途切れる優しい声は、自分に向けられた声ではない事に何故か不快な気持ちになった。