しばらくすると、廊下から足音が聞こえてきた。


「ウソっ!?もう巡回の時間?早くね?」


大地たちは急いで灯りを消し、金とトランプをベットの下に隠してベットに飛び込んだ。


確かに早い、事前に先生たちのファイルをのぞき見して把握したのに。


キィィ…


「あの…、海くん。いる?」


「………?(×4)」


ドアを開けて顔だけ出したのは、他クラスの女の子だった。


「いるけど…何?」


思わぬ来訪者に戸惑いながらも、部屋の電気を付けようとした。


「あ、つけなくていいよ。ただ…少しだけ、外で話せる?少しだけでいいの!」


背丈は空よりも低く、青い瞳に地毛の茶髪、アメリカクォーターを思わせるかわいい娘だった。


「……、いいよ。」


誰にもバレないよう、合宿場の外に出て、俺とその娘は向かい合う。


「あ、あの。私 右島 春桜っていいます。春の桜って書いて、もも、って読むんです。五組です。」


一生懸命自分のことを話す。なんでタメなのに敬語なんだ?


「それでね、私、ずっと海くんを見てたの。入学式の時初めて見た時からずっとかっこいいな…って。……だから…」


大体このくだりは8回目ぐらいかな?女の子にしてみれば、一世一代の大覚悟だが、俺にはなんの新鮮味が無い。慣れって怖いな。


「よかったら…、本当にもしよかったら…。私と…付き合ってください。」


頭を下げて俺の顔を見ない。言っちゃった恥ずかしさと、断られるかもしれない不安を同時に隠す有効な姿勢だ。

なんて、悠長に分析してる場合じゃないな…。


「ごめんね、気持ちはすごい嬉しいんだけど…」


いつもの返答をする。確かにかわいいけど、正直空より劣るし、名前しか知らない奴と付き合うつもりは元々無い。


それに俺は今、空が好きなんだ。誰に告られようとOKするつもりはない。