黙って私の後を歩く犬居さん


はぁ


なんだか


気持ちが落ち着かない




着なれないドレスは
高いヒールで歩きづらい足元を応援する





「平瀬様。」


重厚な木製のドアの前に立っていたのは


蔵之助さん家の家令の芳賀さんだった



「こちらが会場になります。どうぞ中へ。」



丁寧にドアが開けられた


広いフロア
壇上ではオーケストラが重厚なクラシックを奏でる


高い天井から降るように輝く大きなシャンデリアのクリスタル



「な…にこれ…―。」

言葉を失う私



「まもなくパーティーが始まります。それまでおくつろぎ下さい。」


犬居さんはフロアに入ろうとはしなかった


「犬居さんは?」


不安になった私に
犬居さんは優しく微笑む


「ここから先は使用人の私は入れません。
どうか、時間の許す限りお楽しみください。」


そんなっ!!


ヤダ…

ただでさえ慣れない雰囲気と光景に不安なのに



「大丈夫ですよ。
先程、お約束したでしょう?一人にはしません。

常に傍に控えております。
では。
失礼します。マイロード。」


音もなく閉まる扉のなかに犬居さんは消えた



一瞬にして

不安に駆られる


どうすればいいんだろう


フロアには社交に慣れた
着飾った人たち


それぞれ談笑してる


取り残された私は
フロアの壁の隅に寄った