『もしもし?』


雑踏の音と一緒に届く矢倉くんの声


「私。平瀬です。」


ゆっくり
噛み締めるように言った


私の声とは正反対の
明るいケタケタとした声が帰ってくる


「平瀬さん?
やった!ホントにかけてきてくれたんだね。
待ってたんだよぉ!」



馴れ馴れしい
人を見下したような言い方

苛立つ自分を必死で抑えた

「昼間の話だけど…
お父さんの事、ホントに知ってるの?」


『もちろん。知ってるよ。じゃ、明日…大学のカフェテリアにおいで。』

ご機嫌そうな声が私をさらに苛立たせる


「…わかった。」


矢倉くんが電話を切るのを待てずに私から切った


力任せに
携帯電話をソファに叩きつける

行き場の無い苛立ちが
サテン生地のお気に入りのビーズクッションを握る手を強めた