坂をのぼる。
坂をくだる。
人とすれ違う。
つながれた犬が、
こっちを見てる。
街路樹の下を歩く。
今日は天気がいい。
横断歩道はちょうど青。
運がいい。

わたしは汗ばむ。
休まず歩く。
座って休んだら、
わたしがわたしでなくなるような
そんな気がした。
休んだ時点で、
海へ行くための決意が、
意味が、
どこかに消えてしまう気がした。
それに、ここからが、いいところ。
わたしは止まらない。
まだ歩くのをやめない。

住宅街を歩く。
大きな公園の中を抜ける。

地図には詳しくない。
でも、わかる。
歩いたことのない道だけを通り、
わたしは海まで出られる。
まったく疑いのないこと。
決定事項。
なぜなら、わたしは、
海のにおいを覚えているから。
あの潮風を忘れたりしないから。

もしどんなに間違っても、
歩いていれば海へ着く。
日本では、
そう決まってる。

でも、わたしは道を間違えない。
その証拠に、
スピードが落ちない。
絶対に正しいから、
だんだん速くなる。
海に出ることを選んだのも、
もちろん間違いじゃない。

砂浜に打ち寄せる波の音、
まだ聞こえてる。

聞こえてる。

いままでだって、
ずっと聞こえてた。

気づかないふりをしてた。
ずっと。