どのくらい時間がかかるか、
そんなことはわからない。
ひと晩?
明日?
それ以上?
考えてもわからないことは、
たぶん考えなくていい。
直感で気づく。
だから、
歩き始める。

どうやら財布だけは、
手に持っている。
鍵は締めただろうか、
記憶があやふやだけれど、
部屋はわたしのうしろに置いてきた。
カーテンは閉まっているが、
窓は開いているはずだ。
それより、海へ行かなければ。

鍵がかかっていない不安は、
海へ急ぐ気持ちより、
ずっと小さなものだったし、
そんなに器用ではないから、
背中を向けたことまで
気にしていられない。

そう、
わたしは、
わたしの居場所に、
背を向けてまでして、
海へ向かってる。

そのことに気づくと、
すこしだけ
誇らしかった。

だからわたしは、
日常を捨てて、
海だけを目指し、
歩いていける。

前へ進める。