「…………」


知らない人間の墓。だけど墓には「坂見」の文字。両親が眠っているらしい場所である。

頼んでもいないのに施設の人が調べてくれた。俺の両親は既にこの世界にはいない事、そしてこの場所。

別に再会なんてしたくなかった。だが施設の人は1度対面しておいでという。

だから仕方なく来てやっただけなのだ。花を添えて線香あげて知らない人間の為に手を合わせる。

祈る事なんてしない。ただ何も語りかけずに無意味にそうしているだけ。


「そっちに行くの、延期になった。だから安心して?」


そんな言葉が聞こえた。そちらを見れば、俺と同じ歳位の男とその親らしき人物。

手を合わせてまたあの祈りのポーズ。何をそんなに、と思ってしまう。


「蒼一、そろそろ行くわよ」

「分かった」


祈りを終えた男に親らしき人間はそう言った。そしてその親子はその場からいなくなった。

話しかけたって通じやしないのに。何だかふざけているように感じた。