「私の通っていた高校の卒業生でね、凄くピアノが上手な先輩がいたの。

その人の名前が、沢野由って名前なんだ。だけど何故かプロにはならなかったんだって。

1度会ってみたかったけど、2年前に他界してしまったの……まさかこんな形で会うなんて」

『あら、周ちゃんは私の後輩かしら？　そこまで知っているなんて驚いたわ』


へえー……そう言う事。周の通っていた高校のOBが沢野か。

周が言っていたピアノの音、本当ならばこいつが原因で間違いはないだろうな。

そんな事を考えながら、周と沢野の会話を聞いていた。口を挟むのも面倒だったし。

さっきまであんなに怖がっていたくせに打ち解けるなんて凄いな。


『突然だけど、周ちゃん。1つ聞いて良いかしら？神様っていると思う？』

「いますよ？」

『そう、私はいないって信じたいんだ。いたら恨んでしまうもの』


それじゃあ俺は沢野にとっては憎い存在って事か。どうでも良いや、そんなの。

聞いている周は少し焦ったような表情をしている。俺に気を遣っているのだろうか？

そんな気遣いは俺には無用だ。だから周に怒鳴ろうかと思った。だけどやめた。


『ああ、慈君といったかしら？　怪我させてしまってごめんなさいね？』

「別に。こんなの死ぬような怪我じゃねーし」