「慈ちゃん、この廃墟の2階にはね……ピアノがあるんだ。たまにね、誰もいないのにピアノが……」


ぼんやりとしていたら、周が頼んでもいないのに勝手に豆知識を披露し始めた。

そしてその言葉を遮るかのように2階からガラスの割れる音。この辺りは人気は殆どない筈。


「きっと誰かの悪戯よ」


周はそう言って2階へと俺の手を引いた。するとそこには周の言うように真ん中にはピアノがあった。

周りを見回して見た。ガラスの破片なんて落ちていなかった。周はそれに気付いていない様子。

だけど俺は不親切だから教える必要もないと思い、そのまま放っておく事にした。


「折角だし弾いてみようかな?」

「お前ピアノ弾けるんだ?意外」

「失礼ね。これでも10年はやっていたのよ?」


証明して見せると言わんばかりに周は椅子に腰掛けた。そして弾こうとした正にそのときだった。

またガラスの割れる音がした。今度は破片が周目掛けて飛んで来た。

思わず俺は彼女を庇っていた。結果、両腕に無数の切り傷が出来、服にはうっすら血が滲んでいた。


「い、慈ちゃん大丈夫!?」

「別に。周は?」

「君のおかげで何ともないよ。助かったわ」