「私、揺可(ゆりか)って言うの。揺れる許可の可で、ね」

「ふうん。で?」

「名乗らないの?」

「必要がない。報道で俺の名前は出てしまったし」


そう即答したら無理にでも名前を聞かれた。無理もないか。でも答える気はなかった。

少しして俺の名前を思い出したようで、“壱樹さん?”と聞かれた。

坂井 壱樹(さかい いつき)。これが俺の偽名。

力投入の報道をする際、プライバシー保護の為に使われた物。

もう1人の方は“宮沢 流菜(みやざわ るな)”って奴だが、こちらも偽名。だから本名なんて知らない。


「知っているなら聞くな」

「そんな事言わないで、ね?」

「用件をとっとと言え。後で面倒だから」


本当に早く用件を言って欲しい。それもそうね、と揺可という女が言った。


「君って私達みたい」

「俺は犯罪者になった覚えはないが」

「でも似たようなモノだよね」


揺可の話は続いた。

俺と自分の違いは罰せられない事だと言う事、叱られずに褒められる事。

何を言いたいのかがよく分からなかった。だから適当にあしらう事しか出来なかった。

すると突然、揺可は自分の罪の事について俺に聞いてきた。