彼はここで住み込みで働いていて、両親が死んで身寄りがないことにしていたのだとか。


そして、海が好きだったこと、料理人になりたかったこと、本当は家出してきたこと全てを謝罪していた。


最後に、「治らない病気なんです。」とも。


何も言わないジルの顔は、見ることが出来なかった。


大将は顔を伏せ、おかみさんが涙を零している姿を見つめながら、シュウはここで愛されていたのだろうな、と思った。


幸せはそこら辺に落ちている、なんて誰かが言ってたけど、あたしがネオンの街で見つけられないものを、もしかしたらシュウは、この自然豊かな場所で見つけたのかもしれないのだ。


いつ消えるとも限らない命の炎を必死で絶やさぬようにしながらも、きっと何事もなかったかのように過ごしていたのだろう。


ただ、やりきれなくなった。


普通に生きることがどういうことなのか、わからないまま。


出来るならこのままにしてやりたいという気持ちになるが、大将やおかみさんのことを想えば、それもはばかられた。


両親のことは正直どうでも良いと思うあたしは、やはりどこかおかしいのかもしれない。



「ジル、帰ろうよ。」


2年が経過して、それぞれにそれぞれの居場所が出来た。


あたしにもシュウにも、簡単には捨てられない場所があって、決断を下すのは容易ではない。


ひとつ吐息を吐き出し、シュウへと顔を向けた。