突然に、しかも何のことを言っているのかがわからなかった。


ただ、瞳はいつものように悲しげで、問うより先に彼は、のれんをくぐる。



「いらっしゃーい。」


訳もわからず立ち尽くすあたしとは正反対の声で、おかみさんらしき人の明るい声が響いた。


お店の軒先から足を進められないまま、何故だかいつか一緒にシュウと同姓同名の遺体を見たときのことを思い出した。


ジルの言葉と瞳は、あの日のことを思い起こさせる。



「あら、観光さんかしら?
こんな何もない町には似合わない美人さんねぇ。」


お世辞なのそうは聞こえない柔らかい声色で笑顔を零され、あたしは曖昧に笑いながらジルの向かいへと腰を降ろした。


まだ夕食時には早いようで、店内にはあたし達以外のお客はいないが、広くはない店なので、それもさほど気にはならないといった感じだ。


ジルはさっさとメニュー表へと視線を落としてしまい、先ほどのことすら聞くに聞けないまま。


何となくもやもやとしていると、奥から旦那さんっぽいおじさんが出てきて、あたし達を一瞥した。


寡黙、という表現しか出来ないような人だ。



「ほら、シュウ!」


刹那、弾かれたように顔を向けた。



「アンタもお客さん来たんだから、手伝いなさい!」


奥に向かっておかみさんは、そう声を上げている。


だけどもあたしの心臓はすごい速さで脈を刻み始め、手の平がじんわりと汗ばみ始めた。



「ほら、早く!」


刹那、手招きされ、奥から顔を覗かせた人物の姿に、あたしは目を見開くことしか出来なかった。


視界の隅に映るジルは、顔を俯かせたまま。



「…何、で…?」