ホテルを出ると、沈む寸前の太陽が、最後だとばかりに世界をまばゆくもオレンジの色に染めていた。


毎日見ているはずの色だけど、さすがにあのネオン街とは違い、綺麗だな、と思ってしまう。


こうして自然の色に染められていると、自分自身の薄っぺらなメッキが剥がされてしまう感覚に陥ることがある。


レナじゃないあたしは、一体どんな人間だったろうかとまた、思い出せもしない過去を辿った。



「レナ。」


呼ばれた名前に、弾かれたように顔を向ける。


思えばあたしは、誰かに本名を教えたことすらなかったのだと、本名すら知らない男の顔を見つめながら思った。



「海鮮、だっけ?」


「珍しいね、あたしの希望聞いてくれるなんて。」


「聞いてるだけ。」


「…あそ。」


「お前、ビール飲めりゃ何でも良いとか思ってない?」


「わかってんじゃん。」


「わかってるからダメっつってんだよ。」


「ケーチ。」


「つかお前、酒飲みすぎだから。」


「自分だって飲んでんじゃん。」


「俺は良いんだよ。」


何でだよ、って思うけど。


呆れるように肩をすくめながら、何にもない町は夕焼けの色がよく似合うな、と思った。


結局、海沿いを走りながら、ジルは小料理屋の駐車場に車を止めた。



「レナ。」


車を降りた彼は、そう、思い出したように顔を向けてきた。


首を傾けながらも、向けられた少し悲しげな、でも真剣な瞳に思わず身を固くしている自分が居る。



「大丈夫だから。」