「あ、あの~黒川君」

押された勢いで声をかけてみたけ
ど、その顔はチラリともこちらを
見ず。


「あのーーーもしもし?」

声がちっちゃかったのかな、とも
う少し大きい声を出してみた。

でもやっぱり無視。

なんかムカつくな…聞こえてんの
に聞こえてないフリって
何様?

でもここで怯んでたら授業が始ま
ってしまう。

私は思い切って黒川の肩をつつい
た。


「聞こえてる?もしもし」


「うるさい」

いきなり、ぶっきらぼうに聞こえ
た声に私は固まった。


だめだ。やっぱりやめよう。
なんか腹が立ってきた!

これだったらまだ小山の説教のが
マシかも。

でもタダで引き下がるのもむかつ
くから、嫌味の一つでも言ってや
ろうと口を開きかけた時、その瞳
がこちらを見た。


「用があるなら早く言え」


銀縁メガネの奥の、ほんのり茶色
の目が冷たくこっちを見てる。


始めて間近で見たけど、黒川って
イケメンの部類に入るんじゃないかな。



ああ、それで王子、ね…。



「ちょっと…わからない所が…」

引きつった笑顔で数学の教科書を
差し出すと、なんだか必要以上に
卑屈になってしまった。