智香が指をさした方向…左側の
1番後ろの席の…ふんぞり返った
メガネの…。


「黒川…だったよね?あいつ」


2年になってクラス替えで一緒に
なって以来、話した事も話しか
けた事もなかった黒川貴也。

確か学年でトップ8に入るぐらい
の秀才らしいとか言う噂を聞い
たけど、私とは生きる世界が違
うので、意識した事もなかった
奴。


「黒川って、王子って呼ばれて
 んの?」

「いつもふんぞり返ってるから」


智香がひそひそ声で言うと、私を
肘でこづいた。


「王子ならどんな問題でも朝飯前
 だと思うよ」


言いながら、ぐいぐいと黒川の方
へ押しやる。


「ちょっ、ちょっと待ってよ」


ちらっと横目で見ると、黒川は何
やら難しそうな本を読んでいた。

でもその姿もなんだか偉そうで
まさに王子。


「なんかやだ…住む世界が違うし」

「そんな事言ってる場合じゃない
でしょ!ほら、あと五分しかない
よ」


智香ってば、完全に面白がってる
な。

人の事だと思って。


「仕方ないな…聞いてくるよ」

「がんばれ」

にこにこ顔で押しやられて
あわわっ、と黒川の席の前まで
躓くように駆け込んだ。