「黒川ってほんとに天才なんだ
ね」

「今頃気づいたのか」

黒川は辞書探しを諦めたようで、
長椅子にドカッと座り込み、目が
疲れたのかメガネを取った。


「…悪かったな」

ぼそっと言った声。
振り向きもせず、また耳が真っ赤
で。
…もしかして照れてる?

いきなりの殊勝さに、私まで調子
が狂ってしまう。

「別に…これぐらいたいした事な
いし…」

さっきまで怒り心頭だったのに、
今はちょっと黒川もいい奴なのか
もしれない、とまで思うようにな
っていた。

なんとなく可愛い所あるし。

「頭と顔はいいんだが、いかんせ
ん視力だけは悪くて、探すのに
時間がかかってしまう」

「…………」

頭と顔はいいってのはよけいだけ
ど、メガネしてるぐらいだから本
の背表紙の文字が見にくかったん
だ…。

「どれぐらい見えないの?」

「んー、そうだな…」

黒川は大きな手の平を自分の目の
前にかざして見せた。
その距離、15センチぐらい?

「このぐらいは何とか見えるか」

「じゃあ、私の立ってる位置では

?」

メガネなしの顔が振り向いた。
見えにくいのか、眉をしかめて
る。

「ぼやっとしか見えない」

「じゃあ、これは?」

「うわっ!」