なんて、余裕ぶった想像で気を落
ち着かせてはいるけど、足は相当
焦ってる。

ハアハアと息を切らせて図書室に
入ると、ふてくされた感じで机に
足を投げ出した黒川がいた。

「お前、何するのもとろいな」

全速力で走って来たのに、それは
ないでしょ!

図書室へ入ってふと気がついた。
私達の他に誰もいない。

「それで、何か用?」

黒川の前に腕組してふんぞり返っ
てやったけど、内心ビクビクして
る。

「本を探してる。フランス語の」

「えっ、フランス語?」

「できれば訛りが翻訳できる辞書

みたいなのがいい」

足を投げ出したまま、黒川は顎で
指図した。

「…それを探せと?」

「ほぉ、お前にしてはよく理解し
てるじゃないか」

ムカツクーーーー!!
お前にしては、って何よ!

「探せばいいんでしょ、探せば」

ドスドスと足音をたてて、私は本
棚へ向かった。

だいたい辞書なんて、辞書コーナ
ーの棚にあるに決まってるじゃな
い!


一番奥の、恐らく誰も使ってない
であろう、ひっそりと並んだ辞書
の群れの中から、適当にフランス
語の辞書を選ぶと黒川の目の前に
突き出した。

「これでしょ!?」

チラッとその瞳が本を一瞥した。