「ただいまー」
玄関に入ると、パタパタとスリッパで走ってくる音。
「吏遠、携帯電話置いてったでしょ?」
全く……と腕をくむお母さん。あ、そういえば……持ってくの忘れてた。どうせ使わないし、無くたって困らない。
「使わないし……」
「もう……女子高生なんだから、男の子とメールでもしなさいよ」
そうぶつぶつ言いながらキッチンに入っていく。
お母さん……物凄い余計なお世話。男の子と、って……。
「する必要無いしー」
冷蔵庫からお茶を出しながら言うと、お母さんが怪しく笑った。楽しそうに。
「いつも来る男の子たちは?」
あんまり来てないし!いっつも侑士の家に行く。学校から一番近いから。
「学校で嫌ってくらい話してるのにメールまでして話したく無いよ……」
コップに注いだお茶を一気飲みして、自分の部屋に戻った。
お母さんのあの目が嫌だ。あたしと龍矢と侑士は友達以外の何ものでも無いのに。
お母さんとお父さんが高校で出会って結婚したからって、あたしは違う。
仲がいいからって付き合うってわけじゃない。
あたしはベッドに制服のまま倒れ込んだ。
あたしが龍矢か侑士と付き合ってるって思ってる人が居るのは困る。