ゼンはまだ、戦った相手の方を向いている。
短剣を持った海賊は、口元に不気味な笑みを浮かべたあと…
ゼンの背中を目掛けて走り出した。
「―――ゼン!」
たまらず、私は大声でゼンの名前を呼ぶ。
だめ…
間に合わない―――!!
「ぐぁっ」
両手で顔を覆った私の耳に届いたのは、くぐもった呻き声。
けど、その声は…ゼンじゃなかった。
野次馬の歓声と、海賊たちの怒声が混じり、空気が揺れた。
私は、そっと両手を下げる。
「…背後を狙うたぁ、卑怯じゃねーのか?」
栗色の風に靡いた髪を掻き上げ、倒れた相手の短剣を持つ手を、片足で押さえつけているのは。
「…レキッ!」
私の声に反応したレキは、にかっと笑うと、私にピースサインを向ける。
レキってば、今そんな場面じゃないのに…!