…多分だけど。
断言は出来ないけどっ。
「…躓いて樽に突っ込んで、人魚化とかしそうだけど」
人魚化って…。
私、もともと人魚なんだけどな。
「よほどの量の水を全身にかぶらない限り、大丈夫だよ」
小雨とか、飲み物こぼしたとか、それくらいなら全然平気。
ゼンは、視線を私から前方に戻すと、
「…ならよかった」
と呟いた。
…もしかして、ゼン。
心配してくれた?
私が、もし人前で人魚になったら、って…。
「………」
自然に、頬が緩んでしまう。
誰かの小さな優しさが、こんなにも嬉しい。
私は、駆け足でゼンの横に並ぶと、二人一緒に街の入口をくぐった。