観覧車に乗り込むと、小畑さんはカメラを構えて黙って時々シャッターを押している。



その音だけだがゴンドラの中に響いていた。



彼女は何か言いたそうだったけど、結局は静かなままで。



少し・・・気まずい雰囲気がこの場を包む。




「haruさん、私噂で聞いたことあるんですが、なんでもあなたの幻の名曲があるとかどうとか・・・」



小畑さんが、さっきとはまた少し変わった言い方で、俺に尋ねたのは、きっとこの場の雰囲気を変えるため。



幻の名曲?



「ピアノだけで、ただ1回だけどこかの大学の文化祭で・・・」



あぁ。



俺が多分何かに気づいたのを小畑さんは表情で読み取ったんだろう、こう続けた。



「あれって、なんかのアルバムに入ってるんですかね。聞いてみたいんですけど」



よみがえってくる思い出。



彼女の笑顔。



抱きしめたときのぬくもり。



絶対話さないと誓った夜のこと・・・。




・・・・胸が、



息が苦しい。




その「彼女」が目の前にいるのに。