このときばかりは、さすがの俺も緊張した。


「どうぞ」


「はい」


中年の男の医者だった。


「奥さんで、よろしいですね?」


「はい」


「倒れたとき、近くにやかんがあったらしいです。そのお湯を、左手にかぶったみたいですね」


「そうですか」


「火傷はたいしたことありません。傷が残ることもないでしょう」


「はい」


やかんか。


さっき火傷って聞いても、理由を聞く余裕もなかったな。


「それから」


「なんでしょうか?」


その医者は、急に笑顔になった。