なぁ、春菜。


そんなに咳して。


好きな女が苦しそうにしてるの、ほっとけるわけないだろ?


昼過ぎの電車は、あまり人がいなかった。


席に腰を下ろすと、春菜がため息をついた。


「大丈夫か?」


「うん」


少し顔を赤くして、それでも俺に笑顔を向ける。


苦しいなら、苦しいって言っていいんだぞ。


それとも。


俺がそのお兄さんじゃないから、言えないのか?


「上がって」


「おじゃまします」


初めて、春菜と幼なじみのお兄さんが住んでる家に足を踏み入れた。


きれいに片付いてる印象だった。