テレビからは派遣切の報道がながれていた。
「ふうー」
ぼくは、大きく息を吐くとスイッチを切り家から出た。
「あら?今日はお休み?いいわね。」
隣のおばさんの声が耳にはいる。
ぼくは、聞こえないふりをして歩き続けた。(しらじらしい!失業中だと知っているくせに!)むっとした表情をしながら歩き続けた。
パソコンの検索画面を無表情に見つめていた。雇用保険は3ヶ月。期間中一定の就職活動をしなければ貰えない。
今までのことで働くことに恐怖心のあるぼくにとってそれは、雇用先を探すためというよりも毎日の日課だった。
何もかも、もういやだ!まるで監視しているみたいな近所のおばさんも、よそ者を見るような目の親も、まったく俺の価値の分からない社会も何もかも!
机の引き出しから缶を取り出し決心したように蓋を開けた。中の錠剤を一気に飲みほす。少しずつ意識が遠退く(ああ、これで楽になれる)
窓から光が差し込む。
朝ごはんのにおい。
「おはよう。」
笑顔で母が話し掛ける。
(死ねなかった…。)
その日のうちに僕は病院へ入れられた。
『診察室』と書かれた扉を開ける。
部屋の中央には大きなテーブルがひとつ。棚には子どもが使うような人形やミニカー。絵本や雑誌も置かれている。
部屋の隅にある木枠に目をやった。
中には砂が入っている。
小さな砂場のようだ。