「そのチョコ‥‥
渡せなかったんだ?」


彼は肩にかけていたカバンを地面に置きながら言った。


「渡すはずだったんでしょ?
誰か、好きな人とかに」


あなたに渡したかったんですよ、
そう言いたい気持ちもあったけれど、私は黙って小さくうなづいた。


「‥‥はい。
渡したかったんですけど、でも渡せなくて。

私、いくじなしだから‥‥。」


私がペットボトルをぎゅっと握りしめながらつぶやくように言うと、
彼はははっ、と笑って私の手からチョコの箱を取った。


「何があったのか分かんないけどさ‥‥
俺は、いくじなしなんかじゃないと思うよ。」




「‥‥えっ?」


「だって頑張ってこのチョコ作って、渡そうとしたんでしょ?

それだけでも俺、すげぇと思うもん。
俺だったら、そんなのできないし」