「渡すはずだったんですけど‥‥ 何ていうか、その、渡せなくて。 それで」 そう答えながら、私は手で涙をごしごしと拭いた。 こんな涙でぐちゃぐちゃの顔、見られたくないもん。 「‥‥泣いてたの?」 彼は、私の顔をのぞきこんで言った。 「な、泣いてないですよ!」 私があわてて否定すると 彼は私の目の前にすとん、としゃがみこんだ。