また、声が聞こえた。
今度ははっきりと、強く。
「……ここか…」
煉は辺りに誰も居ない事を確かめると、ふわりと後ろへ跳躍し、太い杉の枝に降りた。
目を細め、耳を澄ます。
さわさわと木の葉の擦れる音。
鳥の羽ばたく音。
川を流れる水の音。
子供達のはしゃぐ声。
学校のチャイム。
聴感、視覚を一時的に発達させた。
これが、氷神一族が特殊である事実の一部。
「…居た」
一際強い念が煉の肌に伝わる。
それもそのはず。
“彼女”はこちらを見ていた。
それは普通の人間の視力では、見ることの出来ない位遠く離れた所からだったが、彼等は確かに互いの姿を確認し、見つめている。
「あの子…なのか…?」
風になびく黒髪を払いもせず、ただじっと、彼女はそこにいた。
凛とした姿は、とても助けを求めているようには見えず。
「…っ…」
煉は心深い所で、何かが刺さる感覚を覚えた。同時に“彼女に逢わなければならない”という心理が生まれて行く。
「…逢いたい」
そう口に出した途端、彼女が少しだけ微笑んだ気がした。