呆然としたレオノーラの耳に、お父さんの苦しそうなうめき声が聞こえました。

ああ、お父さん。
私のせいで怪我をしてしまったお父さん。
私が行かないと、お父さんはお医者さんに見てもらえない。

お父さんは助からないかもしれない。


「……わかりました。私、領主様の所に行きます」


顔を上げてきっぱりとレオノーラが言うと、お母さんの顔がほころびました。


「ああ、レオノーラ。ありがとうよ。
幸せにおなりよ。お父さんはきっと元気になるからね」


「……お母さん、最後にお父さんに挨拶してきてもいいかしら?」


「いいとも。そのかわり手短にするんだよ。婆さまがお待ちだからね」


レオノーラはぱっと立ち上がると、お父さんの元へ駆け出しました。


「お父さん」


うんうんと唸っているお父さんの頬に、レオノーラはそっとキスしました。


「お父さん。私、領主様の所へ行くわ。お父さん、今までありがとう。大好きよ」


涙がぽろりと零れました。


レオノーラはその涙をぐいっと拭くと、お父さんの方を振り返らずに、家を出ました。