月が、静かに真上にやってきました。


レオノーラは湖面から月乞草に視線を走らせました。
小さな花はゆっくりと花弁を閉じたかと思うと、次にその隙間からキラキラとした光が溢れ出しました。


その光は森中を照らすのではないかと思うくらい眩しくて、レオノーラは思わず目を閉じてしまいました。


「月乞草さん!?」


なんとか目を開けた時には、キラキラした光は消えていました。
代わりに、空と湖面の二つの月から、月乞草へと、クリーム色の光が注がれています。


その光を浴びて、閉じた花は再び開き始めました。
ふるふると震える花びらは、苦しんでいるのでしょうか。


「頑張って!!」


ゆっくりと開いてゆく花、レオノーラはそれをじっと見守りました。


ぱさり。


花びらの中から、七色に光る透明な羽根が姿を見せました。伸びをするようにきゅうっと震えています。


「妖精が、生まれるのね」


ぱさり。


もう片方の羽根が現れて、羽ばたいたかと思うと、すう、と浮き上がり、レオノーラの目の前に、可愛らしい妖精が姿を現しました。


ふわふわとした綿毛のようなドレスをきた、レオノーラの手のひらにのるくらい小さな妖精の女の子。

薄紫色の瞳を輝かせて、自慢げに微笑みました。

「どうかしら? 私はちゃんと妖精に生まれ変われている?」


それは間違いなく、先程聞こえた花の声でした。