あっという間に時間は過ぎ、気付けば日は暮れていた。
「春也。お前そろそろ帰れ。」
迎え呼んでやるから。
「嫌よ」
テストが終わるまで泊まるわ。
「だいたい春也はお兄ちゃんが家を出るって知ってたら反対だったんだからね」
だから黙ってたんでしょ。
亜姫はそれを声にする勇気はなかった。
「春也、もう子供じゃないだろ。わかってくれよ」
俺は家を出たかったんだ。
「お兄ちゃんには春也がいるじゃない!」
お祖母様がなんて言おうと春也はお兄ちゃんの味方だもん!
春也が味方してればお祖母様は何も言わないわ!
「春也。お前が帰らないとあのばーさんますますヒステリー起こすぞ」
頼むから、おとなしく帰ってくれ。
「…じゃあまた来てもいい?」
「あぁ」
立ち入れない領域。
亜姫はこの場にいてはいけない気がして、必死に数式を解いていた。
迎えが来ると、春也はおとなしく帰った。
「…あたしも帰る」
「お前はもうちょっと勉強してから帰れ」
俺様が教えてやってるのに、酷すぎるぞ。
「あんな話されたら集中できないわよ」
「だから、延長してもうちょっと教えてやるって」
聞きたい。
でも聞けない。
亜姫は無意識に市矢を凝視していた。
「何」
「べ、別に」
そういや、あの猫。
「名前、イチヤになった」
あいつ、俺を呼び捨てにしやがって。
「あんたのこと大好きなんだね」
「かわいい妹の頼みならなんでも聞いてやりたいけどな」
あんまり甘やかすと、兄離れできなさそうで。
「かなり困ってる」
もうすでに、重度の依存症。
豊かな環境で育った故に、無垢であり貪欲。
「自分の思い通りに行かないこともあるってことが理解できないんだよ」
なんか。
「お金持ちも大変ね」
あんたは違うの?
「俺は、違うよ」
わかってしまった。
「どんなに強く求めても、手に入らないものがあるんだって」
守れないものがあるんだって。
−あんたなんか大っ嫌い−
忘れられない記憶が、ぐるぐる廻り出す。
今はまだ、心に張り付いて消えない。
「春也。お前そろそろ帰れ。」
迎え呼んでやるから。
「嫌よ」
テストが終わるまで泊まるわ。
「だいたい春也はお兄ちゃんが家を出るって知ってたら反対だったんだからね」
だから黙ってたんでしょ。
亜姫はそれを声にする勇気はなかった。
「春也、もう子供じゃないだろ。わかってくれよ」
俺は家を出たかったんだ。
「お兄ちゃんには春也がいるじゃない!」
お祖母様がなんて言おうと春也はお兄ちゃんの味方だもん!
春也が味方してればお祖母様は何も言わないわ!
「春也。お前が帰らないとあのばーさんますますヒステリー起こすぞ」
頼むから、おとなしく帰ってくれ。
「…じゃあまた来てもいい?」
「あぁ」
立ち入れない領域。
亜姫はこの場にいてはいけない気がして、必死に数式を解いていた。
迎えが来ると、春也はおとなしく帰った。
「…あたしも帰る」
「お前はもうちょっと勉強してから帰れ」
俺様が教えてやってるのに、酷すぎるぞ。
「あんな話されたら集中できないわよ」
「だから、延長してもうちょっと教えてやるって」
聞きたい。
でも聞けない。
亜姫は無意識に市矢を凝視していた。
「何」
「べ、別に」
そういや、あの猫。
「名前、イチヤになった」
あいつ、俺を呼び捨てにしやがって。
「あんたのこと大好きなんだね」
「かわいい妹の頼みならなんでも聞いてやりたいけどな」
あんまり甘やかすと、兄離れできなさそうで。
「かなり困ってる」
もうすでに、重度の依存症。
豊かな環境で育った故に、無垢であり貪欲。
「自分の思い通りに行かないこともあるってことが理解できないんだよ」
なんか。
「お金持ちも大変ね」
あんたは違うの?
「俺は、違うよ」
わかってしまった。
「どんなに強く求めても、手に入らないものがあるんだって」
守れないものがあるんだって。
−あんたなんか大っ嫌い−
忘れられない記憶が、ぐるぐる廻り出す。
今はまだ、心に張り付いて消えない。