市矢は、あたしのことが好き。
キスが、その答え。

「アキ、帰ろ」

いつものように放課後教室に迎えに来て。
一緒に帰り道を歩く。

「来週からテスト週間かぁ」

亜姫は特に成績が優秀なわけではなかった。

「今回の範囲、いつもにも増して苦手…」

亜姫は根っからの文系で理数系が苦手だった。
わからないので自ら進んで手をつけないのが悪循環になっていた。

「俺様が見てやろーか?」

態度は気にくわないが、学年首席。
利用しない手はない。

「お願いします…」
「素直でよろしい」

いーね、潔いその態度。

「そんじゃー直にお邪魔するわ」

マンションに帰ると、市矢の部屋の前に人が立っていた。
セーラー服の女の子。

「げっ」

市矢の顔色が変わる。

「?」

こそこそと亜姫の後ろに身を潜めるが。
隠れきれていない長身の金髪頭。

「お兄ちゃん!!」

市矢はびくりと身を震わせ、ゆっくり顔を出した。

「よ、よぉ」
「よぉじゃないわよ!春也がいない間に勝手に引越しなんかして!!」

機嫌とりに猫をプレゼントしに帰って来て、それっきり顔も見せないで!

「ごめんごめん」
「そのうえ春也の知らない女と仲よさ気に帰ってくるなんて許せない!!」

この子って、市矢の妹ってことよね。

「いつもテスト週間は春也の勉強見てくれてたじゃない!どうするつもりだったの!!」
「わかったわかった」

すっげーブラコン。
市矢、若干押され気味だし。

「でもお前そんなに成績悪くないだろ」

家庭教師だって来るんだから。

「お兄ちゃんじゃないとやる気が出ないのよ!」

それにあのカテキョ説明がいまいちわかりにくいし!

「お兄ちゃんじゃなきゃ嫌なの!!」

結局、市矢の部屋で三人気まずく勉強することになった。

「アキ、そこ間違ってる」

その問題応用だから例題と解き方違うよ。

「こっちのやり方で解いてみ」
「う、うん」

あ、解けた。

「…なんかわかりやすい」
「当たり前でしょ。誰に教わってると思ってるの」

お兄ちゃんは全国模試トップなんだから。

亜姫は春也に嫌われているのを体でひしひしと感じた。