「亜姫チャン、ゴハン〜」
「はい、これ」

亜姫は市矢にお弁当を押し付けた。

「ありがとう。一応お礼ね」

なんかすっきりした。

「よかったね」

いい顔してるよ?

市矢は嬉しそうに笑う。

「でも、なんで」

なんで、こんなおせっかいを?
これがあたしの自意識過剰じゃなければ。

「なんで助けてくれたの?」

ひょっとして、あんた。

「…俺には助けてほしそうな目をしてるやつがすぐにわかる」

救おうとしても、救えない相手もいた。

「そういう意味で、お前は俺の期待以上」

強いね、亜姫チャン。
悲劇のヒロイン演じてるより、そっちんがずっとカッコイイよ。

「いただきまーす」

濁された。
結局、真相はわからないままだ。

「九城せんぱ…」
「市矢でいい」

俺もアキって呼ぶし。

「あたし、今でも菊地先輩のこと…」

いいんじゃねーの。

「俺は全面的に応援するよ」

だって、俺はお前の味方だから。

「あ、ありがと…」

わからない。
ただのおせっかい野郎なのか、それとも。

「アキ」

こっち向いて。

「何…」

その柔らかい唇に、亜姫は頭が真っ白になった。

「な、なにす…」
「確かめたかったんだろ?」

俺の気持ち。

「だから答えた」
「あんたって人は…!」

言えば済む問題でしょーが。
ファーストキスなのに!

亜姫はポカスカと市矢に殴りかかった。

「アキ」
「なっ…」

駄目押しの。

「んっ…」

暴れる体を強く抱きしめられて。
亜姫はおとなしくなった。

「よしよし」

子供のように背中をポンポン叩いてあやされる。

「泣いてもいいよ」
「それが結構平気なの」

自分でもびっくりするくらい。
なんでかな?

「さぁね」

俺はなんでも屋じゃないからわかんねー。

「別にあんたのおかげとかじゃないからね」
「はいはい」

先輩にフラれたことを友花梨に報告したら、本気泣きされてしまった。
まるで自分のことのように感じてくれる友情の温かさに、嬉しくなった。

亜姫は、市矢にキスされたことは言わなかった。