「あんたなんか嫌い」

−大っ嫌い−

先輩のことを考えてる間は、嫌なことなんて全部忘れられた。
恋をすると、些細なことで幸せな気持ちになれる。
完全な片思いって知って、ショックだったけど。
それでも、心のどこかでどうにかなるんじゃないかって期待して。

彼女に悪いと建前を言いながら、下心を持って先輩に接して。

自分の気持ちが、中途半端で右に左にゆらゆら揺れる。

そんなあたしのすべてを、こんな出会ったばかりのやつに全否定されてしまった。

「ほっといてよ」

あー。出た。

「知ってる?」

ほっといては心配しての裏返し。

図星。
亜姫は赤面した。

「そう言うんじゃなくて、もっとこうさぁ」

どうしたらいい?
こんな可愛くないあたし、自分でも嫌いなのに。

「諦めろよ」

すっぱり告ってフラれちまえ。

「そしたらなんか変わるんじゃねーの」

フラれるとわかっているのに?
言ったって自分が傷つくだけだ。

「今も傷ついてるなら一緒だろ」

お前はただ、自分の気持ちを伝える勇気がないだけだよ。

「お前は、春樹に彼女がいるのを言い訳にして逃げてる」

このままじゃ何も変わらないって、わかってるくせに。

「変えたかったら、まずは自分が変わってみろ」

先輩にフラれたら、生徒会には入れないかもしれない。
今まで通り話しかけてくれないかもしれない。

「お前は春樹のこと好きな割にはわかってないな」

あいつはそんなやつじゃないよ。
だから好きになったんだろう?

「うん…」

素直に涙が出た。
亜姫は告白することを決意した。

翌日、亜姫は自分の気持ちと生徒会に入ることを伝えた。
緊張と不安でいっぱいだった心に、優しい笑顔が染み込む。

「実はね、中里さんが猫を拾うのを見てたんだ」

誰も拾わなかったんだ。
薄汚くて、箱の中でか細く鳴く子猫。

「君があの時、あの猫を連れて帰ったから」

こんなにも心の優しい人と、友達になりたいと思ったんだよ。

悔しいが、市矢の言ったことは正しかった。
亜姫は先輩に褒められたのがくすぐったくて、はにかんで笑った。