「オハヨー」

ドアを開けたら、この男がいた。

やっぱり夢じゃなかった…。

しかも、制服着てる。
このパターンは…。

「珍しいこともあるもんだな。市矢がまともに登校するなんて」
「春樹オハヨ」
「でもなんで中里さんと?」

あたしが聞きたい…。

「引越したの。こいつんちの隣に」
「そうなんだ〜」

納得したのか、先輩はいつものようにのほほんと笑っている。

ああ、朝一に先輩の笑顔。
癒されるんだけど今日はなんだか複雑な気分…。

「あ、ちなみに彼は副会長だから」
「俺、引き受けてねーけど」
「断ってもないだろ?」
「うわー強引」

じゃ。

「市矢、どこ行くの」
「屋上」
「たまには教室に来いよ」

春樹は市矢を強制連行。

「じゃあね中里さん」

なんか。

先輩って、あいつに対しては結構強気だ。

「ぷっ」

おもしろい。
意外な一面を見てしまった。

「亜姫チャン、ゴハン食べよ〜」

こいつ。

「亜姫チャン帰ろ〜」

なんなんだ一体。

「ずいぶん九城先輩に気に入られてるね」
「友花梨こいつ知ってたの?」
「俺、有名人よ。知らないの亜姫チャンくらいよ」
「九城先輩は菊地先輩のとこの親会社の息子だよ」
「そ。超お金持ちよ」

しかも。

学年首席。

「世も末…」

こんなチャラチャラしたのが学年首席だなんて。

「亜姫ちゃんはあまり周りに関心がないからね…」
「まぁいいじゃん。そこがこいつのおもしれーとこよ」

市矢は笑った。
亜姫はむっとした。

それから亜姫は、マンションに帰るまで一言もしゃべらなかった。

「何、怒ってんの?」

亜姫は応えない。

「猫飼ってること、バラすよ」
「…あんたって最低ね」

飼ってやるよ。

「あの猫、俺が引き取る」

実家に可愛がってやりそうなのもいるし。

「そいつがもうすぐ誕生日だから、あの猫プレゼントしてもい?」
「お金持ち様なんだからもっと小綺麗な猫プレゼントしたら?」

俺はそいつがいいの。

「…あんたって、わがままね」

だけど、そのわがままに助けられた。

市矢は笑った。
今度は腹が立たなかった。