15歳の、生暖かい夜だった。

いつものように。
わざと肩をぶつけて。

絡んで来た連中を片付けて、公園の隅に積んだ。

「痛ぇ…」

左頬を殴られた。
殴られるたびに、痛みを思い出す。

母さんは、もっと痛かったんだろう。
頭から血を流して。

「ちっ」

気分が悪い。

生暖かい風が、市矢の髪を揺らした。

「…ひっ…いやぁあ…!!」

女の声。

「死にたくないっ…死にたくないぃっ!!」

まるで、この世が終わるかのような悲鳴。

深夜の公園の暗闇の中で。

「いやっ…もうぃや…」

その女は「死にたくない」と泣き叫びながら。

「な…」

左手首を切り刻んでいた。

「お前っ…何してんだ!!」
「離してっ…」

市矢は女の自殺を止めに入った。

そのがら空きの背中に。
さっき気絶させたはずの連中が襲い掛かって。

「おとなしく寝てろって!」

女を庇いながらじゃ上手く戦えず。
市矢はボコられた。

静かな公園には、市矢と女が横たわって。

「…お前のせいだかんな…」

市矢は朦朧としながら。
女を背負って薄暗いバーまで運んだ。

「市矢?!なんだその女は!」

その物音に。
奥から頭にバンダナを巻いた男が現れた。

「拾った。手当してやって…」
「お前もボロボロじゃん。負けたのか?」

そう、女を庇って負けた。
こいつがいなけりゃ勝てたのに。

「俺はいいから、早く…そいつの手首…」

でもなんか、ほっとくとやばい気がして。

「こりゃやばいね…」
「やっぱり病院連れてったほうがいいか?」

そうじゃなくて。

「この傷は浅いから大丈夫だけど…」

その傷の下に。
完治していない無数の切り傷。

「まずいの拾ってきたね」

服のポケットにはピルケース。

「なんの薬かはよくわかんないな…少し和友のとこに持って行くか」
「あいつじゃまだわかんねーだろ」
「大丈夫さ、シンが付いてる」

とりあえず。

「携帯を拝借して自宅に連絡させていただこう」