俺の人生は一度終わった。

「見て、あの髪!噂どおりよ」
「こっちに来ないで!汚らわしい!!」

周りの大人に手を挙げられそうになったとき、母さんは俺を庇った。
だから母さんはいつも傷だらけだった。
俺はずっと母さんの腕の中で泣いていた。
母さんは決して泣かなかった。

「どうして僕とお母さんがいじめられるの?」

僕の髪がみんなと違うせい?

「市矢、あなたは何も気にしなくていいのよ」

母さんが死んだのは4歳のときだった。
母さんは自室のベランダから落ちて、強く頭を打った。

「あの女が死んでせいせいしたわ」

すぐに父さんの愛人が後妻になった。
愛人は父さんの子供を身篭っていた。

「やっと本妻になれた…長く待った甲斐があったわ」

あんた可哀相ね。
子供にはわからないでしょうけど、教えてあげるわ。

「五年前、私はあの女を暴漢に襲わせたのよ」

そのとき出来たのがあんた。
それがあんたが煙たがられる理由よ。

「まぁ男遊びがお好きなようよって噂を流したのは私だけどね」

健気に黙ってるなんて馬鹿な女。
まぁ言ったところでそんな不祥事を表沙汰には出来ないから揉み消されるでしょうけどね。

耳障りな高笑い。

「人一人軽く突き飛ばしたくらいで莫大な金と権力が手に入るなんて、安いものね」

あんたなんか庇うなんて、馬鹿な女。
大人しくあんたを手放せば死なずに済んだのに。

「まぁそのおかげで私は億万長者の本妻よ!笑いが止まらないわ!!」

父さんは母さんが死んでから、あの女の言いなりになった。

そして、春也が産まれた。

逆算したら、母さんが生きていた頃に出来た子供だった。
九城家に、父さんを責める人間なんて誰一人いやしなかった。

そして、母さんの存在は九城家から消えていった。

俺が一番憎いのは誰でもない、俺。

何も出来ない弱い俺。
情けない俺。

強くなりたかった。
毎夜暗い路地裏でガラの悪い連中を再起不能になるまで殴った。

地位や名誉や権力ではない、絶対的な力を手に入れた。

殴り合いじゃ誰にも負けなかった。

あいつに出会う、あの日までは。