「おはよう亜姫ちゃん」
「おはよ」
「猫、やっぱり駄目だって」

うちは犬がいるから。

亜姫はクラスメイトの友花梨に子猫のことを話していた。

「そっか。無理言ってごめんね。ありがと」
「うん」

やっぱりしばらくは隠れて飼うしかないか。
拾った以上は責任とらなきゃだし。

放っておけなかった。
どうしても。

あたしは、ひとりぼっちの寂しさを知っているから。

「中里亜姫さん」

背後からの声に亜姫は振り返る。

「菊地先輩…」
「生徒会のこと、考えてくれた?」

亜姫は生徒会長である菊地春樹に、生徒会に入らないかと誘われていた。

「それが、まだ…」
「焦らなくていいよ。決めたら返事聞かせて」

彼が去った後、友花梨は亜姫に問いかけた。

「断る理由があるの?」
「だって、ねぇ」

入学した時から菊地先輩のことは知っていた。
理事長の息子で、成績優秀。
親しみやすい性格に、穏やかな笑顔。
恵まれた環境にありながら偉ぶることもなく、のほほんとした空気を持っている。

憧れの、先輩。

「先輩、彼女いるじゃん?」

最初は、ただ単純に話し掛けられたのが嬉しかった。
生徒会に入れば先輩と、もっと親しくなれる。
他の誰より、先輩の傍にいられる。

だけど。

きっと、今以上に先輩のことを好きになってしまう。

先輩には、彼女がいるのに。

「もしあたしが彼女なら、好きな人の周りに色目使う女がいたら嫌だよ」

だから、迷ってる。

「亜姫ちゃんはいい子だね」

友花梨は亜姫の頭を撫でた。

「でもホントは先輩と仲良くなりたいの…」

叶わないと知っていても、諦められない。

だって、先輩を見てるだけで幸せな気持ちになれるんだもん。
やっぱり、大好きなんだもん。