百合子は僕とよく似ていた。

「本当は、九城の叔父様にあなたの兄さんと結婚しろって言われてたの」

でも。

「私、嫌いなのよ。ああゆうタイプ」

彼女は赤いメッシュの入った前髪を掻き上げて。

「あなたのその目が好き」

表面はガラス玉みたいにキラキラしてるのに。
瞳の奥がくすんでる。

まるで、感情のない人形みたい。

「ひょっとして、魂が抜けて入れ物だけ?」

キスを迫っても抵抗しないのかしら。

「僕は君と婚約した」

だけど。

「君を愛さない」
「愛さない?愛せないの間違いでしょ」

子供が生意気言っちゃ駄目。

「そんなに早く大人にならないで」

私、あなたが可愛いの。
たくさん、甘えて欲しいのよ。

百合子の前でだけ子供でいることを許される。
僕は居心地の良い場所を見つけた。

アメリカは居心地が良かった。

「じゃあなんで帰ってきたんだ?」
「兄さんが生徒会のために帰ってこいと」

市矢は溜め息をついた。

「春樹の言うことはなんでも聞くんだな」
「ええ」

僕は兄にとって、物分かりのいい弟でなければならない。

「僕は兄に攻められる非があってはいけないんですよ」

春樹に完全に服従し、味方につける。

正確には味方を演じ、自分を信頼させ、相手に可愛がってもらう。
人は好いている人間には良くしたいものだから。

人に利用されているようで、本当は自分が人を利用している。

「百合子も腹黒いやつに惚れ込んだもんだな」
「僕が恐ろしく頭が良いことなんてわかりきっていることでしょう」

市矢さん。

「亜姫さんは、もう兄さんのことが好きなわけではないのに、それを認めるのが嫌みたいだ」
「わかってる」

あいつは意地っ張りで頑固者だ。

「諦めろ諦めろと強要したところで、彼女は諦められないんですよ」

その諦められない理由を、亜姫さん自身わかっていない。
言葉だけでどうにかしようとしても、どうにもなりません。

「わかりませんか?」

彼女に好きになってもらう方法が。

「今はまだ知りたくないね」

あいつだけは自分でどうにかしたいもんで。

「じゃあ僕は静観しましょう」
「そうしてくれ」