白い肌。
赤い唇。

人形のように整った顔立ち。

「あら、男の子なの。女より綺麗なんて、憎らしい子ね」

幼少期から、知能は人並み外れていた。

「っ不愉快だ!」

家庭教師に間違いを指摘すれば、怒りに震えてもう二度と姿を見せず。

人は誰も僕に近寄らない。

僕は、ひとり。

「和友」

父さんの会社が九城グループの傘下に入ると聞いた時、自分には関係ないことのように感じた。
菊地の会社は長男である兄さんが継ぐことになっていると思っていたから。
次男である僕は海外に出てのんびり研究でもしようかと。

「お前が任されてくれないか」

その時初めて、兄さんと父さんは僕に会社を任せようと話していたと告げた。

14歳の僕に。
17歳の兄さんが頭を下げた。

「頼む、和友。父さんの会社を継いでくれ」
「兄さんじゃ駄目なの?」

僕には兄さんのほうが適役に思えた。

「僕には頭のよさより人に好かれることのほうが重要に思えるよ」

違うんだ。
九城の親戚の葉山グループの一人娘が。

「お前でないと、婚約しないと言ってるらしいんだ」

そういうことか。

兄さんは愛した人と婚約して、僕は金と権力の為に婚約する。
それが後ろめたくて頭を下げているんだね。

「かまわないよ」

聞き分けのいい弟だろう?
そのかわりに。

「葉山のお嬢さんと婚約する代わりに、会社は兄さんが継いで下さい」

僕にはわかっていた。
周りの大人が、兄さんに心を許していること。

僕が上に立つことを、大人は誰一人として望んじゃいない。

「わかった。ありがとう」

兄さん。
僕は兄さんが憎い。

誰からも好かれて、何もかもを手に入れるあなたが憎い。

僕は大人だ。
我慢できる僕は大人だ。
自分の感情をうまくコントロールできる僕は。

まだ、14歳なのに。

まだ、子供なのに。

大人になることを強いられた。

「和友、愛してるわ」

19歳だった彼女は、数回しか会ったことのない僕を異常に溺愛していた。

「アメリカにね、うちの研究所があるの」

和友に手伝ってほしいのよ。

僕は、兄さんから逃げるように彼女と日本を去った。