先輩は、もう私と出会うずっと前からその人とお付き合いしていた。
周囲に聞けばすぐにその話が出るほど有名な話だった。

ショックだったけど、不思議と実感は湧かなかった。
私は彼女を見たことがなかったからだ。

「去年は、先輩ひとりだったのに」
「あー、去年は10月だったし向こうの文化祭とかぶってたからな」

今年の文化祭は休み明けの9月。

「早めたんだろうね〜健気な春樹」
「…」

なんでお前に春樹を諦めさせたか教えてやるよ。

「あんたがあたしを好きだから」
「違う」

フィアンセなのさ。

「二人は結婚すんの。だからお前がどんなに春樹にこだわってもダメなの!」

婚約者がいるなんて、上流階級じゃよく聞く話。
でも普通少女漫画なら婚約者と合わなくて主人公と結ばれるんじゃない?

なんて。

先輩に告白して、もうすっきりしたんじゃなかった?
今はまだ好きなままでいいって決めたからかな?

また、いつの間にか告白する前の自分に逆戻り。

「ブサイクな顔」

市矢はあたしに言った。

そのあまのじゃくなとこ。
素直じゃなくて、強がりで、わがままで。

「人に甘えられないやつ」

−放っといてよ。居てくれなんて頼んでないわ−

それでも、そばに居たいんだ。

だから体の一部に穴を空けた。
二人で分けたピアス。

−市矢の髪とお揃いね−

「今はお揃いじゃないじゃないですか」

和友は市矢の髪を見た。

「だって、目立つだろ」
「まぁ今も目立ってますけど」

今日、亜姫さんは?

「ちょっとけんか中」

けんかっちゅーか、一方的に避けられとるっちゅーか。

「いじわるなことばっかり言うからですよ」
「甘やかすと手がつけられなくなるからな」

俺は春也で懲りた。

「あ」
「何」

亜姫さんだ。

和友が指差す先には亜姫と友花梨の姿。

「最近出来た人気のカフェですね」
「うまそーにケーキ食ってんな〜」

あ。

今度は市矢が何かに気付いた。

「こりゃまずい…」