そう広くもない教室に入ると二人の疑問とは関係なく穏やかな空気が漂っていた。

均等に配置されたスチールデスクには二人以外の全員が揃っているようだった。
各自が仲のよい生徒同士が会話を楽しんでいて賑やかではあるが雑音ではない。

二人は数人に挨拶を交わしすと教壇から遠い一番後ろの席に並んでついた。
揃って浮かない顔で正面のホワイトボードを見つめている。

「おはよう」
そんな二人に優しいテノールでサトウ・ユウマが声をかけてきた。
クセ毛かかった少し長めの髪で長身のユウマは、白いシャツとパンツルックで長い足を軽く組んでデスクに腰掛けた。
両手をパンツのポケットに入れたままだが、行儀が悪いというよりは、ファッションマガジンの表紙のように映った。

「あ、おはよう」
ミウは少し笑みを浮かべて返事をしたが、どこかぎこちない。
「どうした?」
ユウマはゆっくりとした口調で問いかけた。短い言葉だが優しさが充分に伝わってくる。

「う、ううん。なんでもない」
無理に笑顔で答えているので、ひきつっている。

「あのさぁ」
カオナが会話に参加した。
「すごく不思議な…というかぁ」
活発な少女もうまく説明できないもどかしさを感じていて歯切れが悪い。

普段の二人と少し雰囲気が違っていることを感じてユウマも困惑していた。
心配そうに二人を見つめるユウマの耳に授業開始の予鈴が鳴った。

「また、あとで聞くよ」
ミウの肩に軽く手をやると耳元で優しく囁いて少し離れた自分の席に戻った。

「うん」
そんなユウマの優しさにミウも笑って返した。