爽やかな印象で二十代後半の男はスーツ姿にバックを肩にかけ、二人に背を向けて明滅する階層案内を見上げている。

「いやぁ。途中で自転車のチェーンが外れちゃいましてね」
気まずい雰囲気を無視して、独り言のように呟きながら首筋の汗をハンカチで拭いた。

二人はエレベーターの角に張り付いて、無言で男を凝視している。

気まずい空気のエレベーターは職員室のある四階で止まった。

「ありがとう」
笑顔で短く礼を言うと、男はバッグを抱えて走り去った。

取り残された二人は呆然と立ちすくみ、無機的な機械音とともにドアがゆっくりと閉まった。