ミウは昨日と同じ図書室の閲覧机に独りだった。

机上には書棚から持ってきた「日本の歴史」といった書籍が開いているが、読んでいるというよりは、置いてある程度だ。

まったく頭が回転していないようだった。

どのくらいの時間が過ぎたのだろう、警備員が閉館を伝えに来た時には辺りは暗くなっていた。

「あ、はい。すいません」
小さく返事をして、図書室を後にした。

エレベーターを降りて外に出ると、室内との温度差もあってか、寒さが彼女の寂しい心の中までも凍てつかせるようだ。

ミトン手袋の両手で口を覆い、暖かい息を吹きかけるが、気休めにもならない。

なんとなく夜空を見上げると、雲が多くて星の輝きがなく、余計に寒々しい思いに拍車がかかる。

今日、何度目かの溜め息をつくと、白い息が宙を舞って消えていく。

「サトウ?」

ふいに後ろ姿に声をかけられ驚き振り返る。

「こんな遅くまで、どうしたんだ?」
ヤマトが自転車を押していた。

「あっ」
あまりに突然だったので、言葉が出ない。

「まさか、居眠りでもしてたんじゃないだろなぁ?」

「そ、そんなんじゃないです」
「あの…その…。図書室でぇ…。その…」

「ん?」

「ちょっと調べものしてたら、遅くなったんです」
顔を赤らめて、精一杯振り絞った。

「そか」
「でも、あれだぞ。勉強もいいけど、若いうちは楽しんだほうがいいぞ」
少し大人ぶった様子だが、かなり冗談っぽい。

「…」
ミウは返答できずに、きょとんとしている。

「なんてね」
ミウの横に並び、悪戯っぽい笑顔を浮かべる。

「ぷっ」
ミウは思わず吹き出した。