授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

教壇で教授は、次回授業が休講の連絡をして教室を後にした。

教室中から緊張した空気が流れ去り、皆が帰りの準備を慌ただしくしている。

しかし、そんな中でミウだけは頬杖をついて教科書を眺めていて動こうとしない。

「ミウ」
ユウマが肩を揺する。

「あっ」
ミウは催眠術から解放されたように顔をあげた。

「どしたの?」
カオナは帰り支度を終えて、いつものように肩に鞄をしょっている。

「ううん。なんでもない。疲れてるのかな…」

「ふうん」
カオナは呆れた様子だ。

「…」
ユウマは無言。

「待たせてた?。ごめん。帰ろ」
急いで鞄に教材を押し込めて立ち上がる。


教室を出てからもミウは会話らしい会話をしていない。

三人は、なんとなく無言で出口の自動ドアまでたどり着いた。

「あっ。ごめん。先に帰ってていいよ」
ミウは、急に思い出したように立ち止まった。

「なぁに?。また忘れ物ぉ?」
カオナは口を尖らせる。

「ううん。昨日、図書室で読んだ本の続きが気になっちゃってさ」

「借りてくればいいじゃん」

「借りるほどじゃなんだよね。図書室にいると落ち着くし…」

「ま、ミウは昔から図書室が好きだからなぁ」

「うん」

「じゃ、先に帰るよ。あんまり遅くなんなよ」

「わかってる。またね」

「ばぁい」
そう言ってカオナだけ外へ出た。

「一緒に行こうか?」
ユウマはミウに優しく言う。

「ううん、大丈夫」
「少し独りになりたいんだ」

「そうか」
ユウマはミウの答えが解っていたように引き下がった。

「ごめん」
俯いて謝る。

「ミウ」

「ん?」

「その…なんていうか」
ユウマにしては歯切れの悪い話し方だ。

ミウは不思議そうに見つめている。

「なにか悩みとかあるなら…力になるから」
言葉を選ぶように振り絞る。

「ありがとう」
ミウの言葉は短い。


向かい合う二人の距離は近いはずなのに、お互いの言葉が遠く思えた一瞬だった。