ミウが帰宅すると母は晩御飯の支度をしていた。

「ただいま」
キッチンに入って、母の後ろ姿に挨拶する。

「おかえり」
顔だけ振り向いて笑顔で返事をした。

「今日のご飯はなぁに?」
悪戯っぽく聞いた。

「ん?。今日はミウの好きなパスタよ」
さらりと言う。

「お。いいですねぇ」
ふざけた口調でおどけている。

「やぁねぇ。どうしたの?。今日はやけに楽しそうじゃない」

「そ、そお?」

「ユウマくんと、なんかいいことあったんじゃない?」

「そんなんじゃないよぉ」

「あら。そう」

「着替えてくるね」

「サラダの盛り付けよろしく」

「了解ぃ」

他愛もない親子の会話をして、ミウは自分の部屋に向かった。
部屋に入って灯りを点けると、コートから携帯を出して着信を確認する。
ユウマから二通、カオナから一通のメールがあった。

『借りた本は返せたかい? いまどこにいるの?』

『帰ったら メールして』

ユウマの短い言葉は、どこか優しさを感じられた。

『本返した? 帰ったら メールせよ』
カオナのメールは性格が滲み出ている。

カオナのメールに小さく吹き出して、すぐ返信した。

『今 帰ったよぉ』
心配させないように短く伝えた。

『今 帰ったよ 図書室で…』
そこまで書くと手が止まり書き直した。

『今 帰ったよ これからご飯だよ』
図書室で教授に会ったことや、自宅近くまで送ってもらったことを書かなかった。

ユウマに心配させたくない想いなのか、それ以外のことなのかは解らない。

少しの間、送信画面が消えた携帯電話を見つめると、小さく溜め息をつき、着替えをしてキッチンへと戻った。