一月の十七時頃となれば、あたりは暗くて一段と冷え込む。
人通りが少ないことと、建物の灯りはほとんどなくて街灯だけといった景色も寒さを後押ししている。

ミウとヤマトは夜道を歩いていた。

ヤマトは通勤に乗っている自転車を押して、冷えた空気とは反対に熱弁を振るっていた。

「で、今から百年くらい前にイギリスのマクレオドって人物が、日本人の起源はユダヤに由来するって仮説を発表したんだよ」
チェーンの外れた自転車は不規則な音をあげた。

「そうなんですかぁ」
ミウは関心したように相槌する。

「そうさ。古代の日本語にはユダヤ語と解釈できる言葉が多くあるんだ…つまりぃ」
そう言って言葉を止めた。

「あっ。ごめん。つい興奮しちゃいました。もう授業は終わってたね」
恥ずかしそうに肩を竦めて、頭をかいた。

「ううん。教授の話しは面白いです」
笑ってミウは答えた。

「そ、そう?」

「はい」

「ようは、日本人が少なくなったといっても、あくまでも科学的な結論なわけだよ」

「そっか。じゃあユダヤ人にも日本人の血が流れてる可能性もあるってことですよね」

「そ、だから日本人は寂しくなんかないんだよ」
「オレの身体の中にだって、日本人の血が流れているわけだし」

ミウは微笑んでヤマトを見つめた、ヤマトもゆっくり頷いた。
ミウは急に顔が熱くなって、胸が音を立てた気がした。
自分でも解らない想いがこみ上げてきた。
咄嗟にヤマトから離れる。

「じゃ、じゃあ。私、この近くなんで」

「あ、ああ」
ヤマトもなにかを感じたようにだった。

「気をつけるんだぞ」
「はい」

「おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」

教授と生徒の挨拶をして、ミウは小走りに通りの向こうに渡った。
そんなミウの後ろ姿をヤマトは見送るとヤマトは自転車を押し始めた。