二人は図書室の読書テーブルの長椅子に腰掛けた。

「本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。見た目よりは頑丈なんですから」
ヤマトの心配を余所に、少し自慢げにミウは答えた。
「そか」
ヤマトはホッとした表情を浮かばせる。

「しかし、なんでこんな時間に?」
ヤマトは不思議に思って尋ねた。
「借りてた本を返しに…」
「ああっ。なるほどね」
ヤマトが大袈裟に納得するとミウ笑顔で頷いた。

「教授は…なにを調べてたんですか?」
「専門書ってヤツは、なかなか手に入りにくいからね。大学の図書室となれば、いろいれ揃ってるから都合がいいんだ」
そう説明する表情は楽しそうだ。
「ふうん」
関心したように頷く。


「…」


「…」


二人の間に、なんとなく気まずい空気が流れる。


一瞬、お互いの目が合う。
さらに気まずい。

「あははは」
二人は照れ笑いと苦笑いの間くらいのリアクションをした。


「日本は…」
小声でポツリとミウ。

「ん?」
小さくて聞き取れなかったので聞き返す。

「に、日本は初めてですか?」
「ああ。初めてだよ。生まれも育ちもシカゴなんだ」

「そうなんだぁ」

「古いものと新しいものが隣り合わせにある街でね。そんなとこが好きなんだ」

「へぇ。見てみたいなぁ」

「きっと、気に入るよ」
目を輝かせる。

「…」
ミウは俯いて遠くを見つめる。
「ん?」
ミウの表情を気にする。

「あ…そっか」
ヤマトは、ここは保護区なので旧日本人は東京市を出られないことを思い出した。
別の国であれば、故郷の話しなど当たり前のことでも、旧日本人にしてみればタブーになる。
無神経な言葉でミウを傷つけてしまった自分を恥じた。

「すいません」
素直に謝罪した。

ミウは微笑んで首を横に振った。