さっき降りたばかりのエレベーターに乗り、七階の図書室に着いた。
窓から西日の差し込めた部屋に人影はなく、どこか幻想的な風景を思い起こさせる。
ミウは返却ポストに本を返すと、立ち並ぶ書棚に向かって歩きだす。
学生の姿はなく、この空間を独り占めしたようで少しの優越感に満たされた。
様々な分類の書棚を眺めながらゆっくりと奥に進む。

「?」
日差しの中に人影が映ったように思えた。
足音をさせないで近づいて、書棚の間から覗きこんだ。

「ああっ」
声がすると同時に本が降ってきた。
「きゃあっ」
咄嗟に頭をかばった両手に何冊かぶつかって、床に落ちた。
ミウはその場に頭を抱え込んで座り込んでしまった。
力強く瞳を瞑っているので視界はない。

「君っ。大丈夫かい?」
男の声が耳に入った。

ゆっくりと瞼を開くと、日差しを背負ったヤマト教授の顔があった。

「?」
一瞬、驚いて言葉がない。

「あれ?。君は確か?」
ミウの肩に手を乗せてヤマトも驚いた様子だった。

「いたたた。教授?なにしてるんですか?」
頭を撫でてミウは言う。
「ちょっと調べたいことがあってさ。それより大丈夫か?」
ミウの腕を掴んで、優しく起こした。
「だ、大丈夫です。」
立ち上がって服を整えた。
「でも、ビックリした」
「ごめん。ごめん。驚かそうと思ったわけじゃないよ。読みたい本がかなり上にあってさ」
書棚の上を見あげて、頭を掻いている。
「そうだったんだ」
「ああ」
なんとなく二人は向かい合わせで静止し、見つめ合った。

「あっ」
ミウは顔を赤くすると、床に散らばった本をしゃがんで拾い始めた。
「あ、いいよ。自分で拾うから」
ヤマトも慌てて拾おうとしゃがみこむと、二人の頭がぶつかった。
「いてっ」
「痛っ」
二人揃って叫んだ。
「ご、ごめん」
さらに謝った。
「ドジ…」
涙目でミウは言う。
二人は顔を見て、しゃかみこんだまま笑った。